私たちの作品は観る人にとってどのような役割を果たすべきなのでしょうか。
少し長くなりそうなので数回に分けて書いていきたいと思います。
この問いは「映像とは何か」という問いに密接に関係しています。そのためこの問いは複雑になります。そして多くの人は「映画・映像のよさは言葉で表すべきものではない、表せない」というような態度をとっています。この考え方にも一理あります。映像と言葉はまったく異なるものであり、片方から片方を表すということは個人的解釈を含むために読み手/鑑賞者にとって興味を引かない場合が多くとしてあるからです。しかしこれでは、言葉は大きく制約され貧しいものとなってしまいます。そこで今回は「映像はどうあるべきか」ということについて考えてみたいと思います。
私たちは何かしらの映像作品(映画やドキュメンタリーなど)を観た後に様々な精神的影響を受けます。作品によっては観た人の人生観まで変えてしまうような「力」を持ちます。また、同じ作品を見た場合でも観た人によって感想がまったく違う場合があります。つまらない作品もあれば忘れがたい素晴しい作品もあります。作り手はこのような状況で、見る人への影響をどのように想定して作品作りに活かせばよいのでしょうか。まず私たちの実感として映像作品のもっている特徴をあげます:
(1)作品は鑑賞者にとって何かしらの影響を与える/意味を持ちうる
(2)その影響とは鑑賞者による作品の解釈 によって決まる
(3)解釈は人によって異なる場合がある
(1)は先に書いた通りです。(2)(3)は私たちは映像を「見ることによって何かを思う」ということです。ハッキリと言葉に出せずともなにか思うイメージのようなものが残ることでしょう。
以上のことをもとに、まず考えたいのは「映像作品は全体として、鑑賞者にとって一環したテーゼを持つことがある」ということです。
私たちは映像作品を観終わったあとに何かしらの教訓を得ることがあります。例えば「人の善行は時として皮肉な結果を生むことになり、それが悪意を生む」「最終的には善が勝利し悪が負ける」といったことです。はっきりと言葉にせずとも意味を受け止め影響を受けたり、自分の言動に作品の影響をうけてハッとすることもあるでしょう。そういった作品には明示的にであれ、隠喩的にであれ、作品のメッセージが込められて作られている場合が多いと思います。勧善懲悪はハリウッドのエンターテイメント作品で多く見られるメッセージなのではないでしょうか。
ドキュメンタリーやニュースはメッセージ性が明確に表されている例であるといえます。ニュース映像がもつ意味は見るものによって異なってはその役割を果たすことができません。そのため作り手は、映像手法を工夫して因果関係を固定したり象徴的な対象を用いることで文法を構成します。
カットの組み合わせによって何らかの関係性を表す手法とはモンタージュ理論に他なりません。これによって単位的な意味を持ったシーンは作品全体としてのメッセージをサポートするように構成されていきます。これは鑑賞者にとって主張をしている、と言うこともできます。このとき映像はメッセージの代用に近いものとなります。
しかしドキュメンタリーなどではしばしばその映像ならではの表現によってメッセージとは関係のない新たな印象を受けることがあります。これはメッセージを数多くの人に伝えるための安全地帯としての表現的余白にとどまりません。この印象の発展こそが第二の解釈(ニュースなどではあってはならないものです)を表現するための展開の第一歩に他なりません。個性的なドキュメンタリーとはこの第一歩を巧みにちりばめることで受け手に解釈の幅を持たせより個人的な体験とさせています。
切り絵アニメを作ろう
「空」をテーマにした切り絵アニメの制作過程
2011年1月21日金曜日
2011年1月7日金曜日
シナリオ
一番最初に決まっていたのは「空」をメインテーマとすることです。これは元々制作の動機がNHKのデジスタ・ティーンズに応募するためだったからです。この企画では10代または学生の制作作品を募集しています。その中の1つ、”「空」をテーマにした架空のCM” に応募しようとしたのです。ただ、これはきっかけにすぎません。あくまで作品の出来を優先したいので、最終的に応募する先を変えるかもしれません。そのためCMということは考えずにやっていきます。
まず「空」というキーワードでは何が思い浮かべられるでしょうか?
真夏の海岸と雲ひとつない空、冬のモヤモヤとした鉛色の空、秋の夕暮れと広々とした鱗雲をもつ空、嵐で雷が光る空、早朝の日の出、夕焼け、青空に夜空などなど・・・
私たちは空の下で生活していますが、いつも頭上にあるのにもかかわらず空は千姿万態の姿を見せます。
時として空は心情の象徴として使われます。「晴れ晴れとした気持ち」という言葉と共に晴れ渡った青空は解放感を思い起こさせます。見る度に異なり複雑で、多種多様な空は人の心を映し出します。(しかし、逆に空を何かで喩えるということはあまりないのではないでしょうか?)
ストーリーを書く際にまず考えたのは「いかにしてキレイな空を印象的に見せるか」ということでした。切り絵なり実写なりの空をシーンとしてこれ見よがしに何度も流すことは空の持つ意味を陳腐にさせるように思いました。そこで作品の世界観は「キレイな空が失われた世界」ということにしました。そして空はなにに閉じ込められている、特別な存在となるようにしようと考えました。
幾つかの予備的なストーリーを考え、取捨選択し、最終的にはこのようになりました。
「ここはキレイな空がない街、 工場に覆われて煙は常に立ち上る。
空はいつも煙に隠れていて下界は灰色、そこに現れた少し陽気で変な男、ビンをひとつ手に持って、
いきなりとった変な行動に周りの人間は驚き、そして嘲笑する。
嘲笑された男はなんだか悲しくなってくしゃくしゃになったり戻っ
突然降り始めた汚い雨、
人々の嘲け笑いと雨が激しくなったところで男、
しばらくしてそこに現れた子供、
雨は光り輝き、周りの人間はどこかしらたのしそう。
あの男は悲しかったのではなく本当はとても楽しかったに違いない
このストーリーでの世界では工場、街、群衆は汚く、愚かなものの象徴として、不思議なビンは美しい空が広がる別世界への入り口、またはそのものということになります。この対比はラストシーンで明らかになることになる、ということにしていこうと思います。
まだこのストーリーは荒削りの段階です。これから画面の隅から隅までの動き、効果を決めていく作業に入ります。紙で煙、雨を表すにはどうすればよいのでしょうか。汚い世界とキレイな空の世界との色合いはどう変わるのでしょうか。まだまだ考えるべきことはたくさんあります。
2011年1月5日水曜日
作成過程を把握する
実際に切り絵アニメはどのように作られていくのでしょうか。
ただ紙を集めてきてカメラを用意したからといってすぐ撮影ができるとは限りません。撮影した画像はどうやって映像になるのでしょうか。音はどうするのでしょうか。
準備段階として、私たちは以下のように作品制作のステップを想定しています。
1:シナリオ
どのような作品となるのかを文章で素画します。世界観やキャラクターの設定が主な作業です。そして結果として「何を表現したいのか」ということを制作メンバーで共有します。
作品全体の方向性を決めることになりますが、今後の様子(実際に紙におこしたときの見た目や環境/経済的に限られる方法など)によって変わっていくこともあるでしょう。こういった臨機応変の変更が簡単にできるのが個人制作の強みでもあり弱みでもあるのではないでしょうか。
2:絵コンテ
シナリオをもとにシークケンスをラフスケッチとメモ書きで羅列していきます。作品はここで一気に具体的になってきます。この段階で「売り」にしたい効果やデザインなどからより詳細に書き込まれていきます。シーケンスからシーンへと分割が行われ、パンやズーム、視線方向などをメモしていきます。
3:シーンごとの効果
アニメーションではゼロからすべてを作らなくてはなりません。切り絵アニメーションが大変な点はすべての動きを作らなければならないことです。当たり前のことですが、紙の俳優は演技をしてくれないのです。キャラクター、オブジェクト、背景の一挙一動までを意識する必要があります。また動きに合わせ効果(自然の変化や形の変化など)も把握しなければなりません。絵コンテをもとにシーンの表一覧をつくり、それぞれに取り入れる効果を考えていきます。ここで作品を特徴づけるユニークな効果などについては深く掘り下げて議論します。
4:色合わせ
キャラクター、オブジェクト、背景の色合いを決めていきます。色は感情表現、ストーリー展開を演出します。また作品を通しての色合いの変化に気を配る必要があります。ストーリーの流れや効果の重なりに合わせて画面全体のとしてトーンを調整することで作品に一体感がでます。また効果、絵コンテに合わせた紙の質感の選択もここで行います。
5:素材の調達
色合いと質感が決まると必要な紙の種類と量が大まかにですが把握できます。卓上で想像していた紙と実際に触る紙とは大きな差がある場合があります。関連したシーンに用いる紙を並べてみて最適な種類と色を選択します。また、撮影に必要な素材(台紙やセット)も調達します。
6:セット、キャラクターの作成
絵コンテはあいあまいな場合があるので、スケッチを描いてみるとよりイメージが鮮明になります。実際に調達した紙を切って背景やオブジェクト、キャラクターを作っていきます。よく動くキャラクターなどは関節をつけたり、パーツ交換ができるようにするなど撮影時の便宜を考慮して作っていきます。
7:撮影環境の準備
カメラとそれを固定するための装置を揃えます。固定は基本的に三脚が便利だと思います。また照明やセット、台紙など必要に応じて用意します。特に照明は蛍光灯(天井にあるもの)のままでも撮影はできますが、全体的に青白く陰が少ないために冷たくテカテカした印象になりがちです。部屋を真っ暗にして電球の照明を撮影サイドの陰が写らないようセットするのも一つの方法です。
8:撮影
作成したオブジェクトなどを動かしながら撮影を行っていきます。一度に動かす大きさがそのまま映像にしたときの動きの速さにつながることを考慮する必要があります。全体の動きスピードのバランスが一定となるように撮影しては短く再生してみる、の繰り返しになるのではないでしょうか。このときに横で紙を切っていては時間がかかってしまうのでできるだけ前もって作れるものは作っておきたいです。
9:ラッシュ
撮影した画像をまとめてコンピュータで映像化します。動きや効果が思った通りになっているかどうかをチェックしていきます。全体の尺やテンポによってシーンの時間の制約がある場合はいくつかの画像を増減させる必要があるかもしれません。
10:音、音楽の作成
ラッシュの時点では無音の状態です。ここに音と音楽を合わせていきます。音とは行動音(足音やセリフなど)や自然音(風や雷、車の走行音など)を含みます。アクションのひとつひとつに音が加わることでリアリティが増していきます。音楽はストーリーを180度変換させる可能性をも持ちます。音楽によっては主人公の笑顔が幸せの笑顔から憎しみを隠した引きつり笑いまで変わってきます。
11:CG、特殊効果
映像として書き出した後に映像全体の特殊効果を入れることもできます。シーンの入れ替えや色合いの微調整までを行うことで作品の完成度が上がります。私たちはできるだけこの段階に頼らないようにしよう、ということを決めました。なぜならコンピュータでの編集は手軽で強力でありすぎるためにこれの頼ってしまうと紙本来の良さが失われてしまうと危惧しているからです。
12:完成
ここまできてやっと完成になります。
2011年1月4日火曜日
切り絵アニメとは?
動画サイト、YouTubeで「切り絵アニメ」で検索するといくつかの動画がヒットします。
これらをいくつか見ればわかる通り、切り絵アニメとはストップモーションアニメーションの一種です。紙を組み合わせ動かしながら静止画を撮影していき、短い時間感覚で再生することで動いているかのように見せることができます。
アニメ、というとセル画が一般的で切り絵のものはあまり広く使われている手法ではありません。しかし他の手法にはない独特の雰囲気があり、また特殊な機材や材料を必要としないため誰でも簡単に作ることができます。YouTubeでも個人制作の作品が数多く上がっています。
切り絵アニメの作家として有名なのはユーリ・ノルシュテイン(Wikipedia)です。YouTubeで「Norshteyn」で検索すると作品をいくつかみることができます。映像は暖かみがあり、紙とは思えないほどに細かくまで作り込まれています。しかしながら紙である特徴は残っています。キャラクターはいくつものパーツに分けられており、光の階調が豊かなためにモヤモヤとした空気感があります。見ていると独特の心地よい世界に入り込んでいくような気がしてきます。
彼の作品から学べる、切り絵アニメの活かすべき特徴は「紙の質感を活かす」ということです。紙は豊富なテクスチャを持ちます。色、厚さ、模様、凹凸、湿り気、ツヤなどによって当たった光は拡散して反射し柔らかくなります。これはセル画アニメでは出すことができない大きな特徴です。
具体的な作品として挙げるならば、animation découpage(Dailymotion)やGoing West(YouTube)は立体としての紙を活かしている例といえます。紙のフチや折り目、湾曲などのパースペクティブは映像にダイナミックな動きと迫力をもたらします。ただし立体感を強調するためには、限られた数の強い光源を必要とするために、本来の紙の薄さからくる「安っぽさ」が露呈しがちなのではないでしょうか。
他にも自主制作の作品やRené Laloux(YouTube)の作品などを見たところ、切り絵アニメ、すなわち紙という素材を使ったアニメーションの重要な要素は以下の3つであると感じました。
1:光源
光は紙を魅せる上で最も気を払うべきことです。ライトの当て方一つで紙は薄っぺらの「紙切れ」から主人公の「肌」や「地面」「空」へと変わります。特に普通紙のようなほどほどに光沢がある紙に対して複数の蛍光灯を使う、ということはできるだけ避けるべきであると思います。蛍光灯は紙の上に欠かれた文字や汚れを目立たせるには最適であるかもしれませんが、陰を極端に消してしまいます。陰は紙の暖かみを構成し、映像の印象に深みを加えます。
2:動く/動かないことの重要さ
切り絵では基本的にエッジが滑らかです。そのため前景と背景にハッキリとした境界線を作ります。そのため画面全体の分割が明示的に行われ、その分割はアニメーションによって変化していきます。映像では動く部分に目が集まりがちですが、切り絵では動かない部分も強く主張をします。カクカクとした動きは静と動のリズムとなります。
また、ストップモーションでは「無駄な」動きが大きな特徴です。キャラクターや背景、建物はフォーカスの外でも関係なく少しずつ動くことで、映像の時間軸は揺れ進みます。
3:質感の強調
紙を使うからには素材としての特徴を活かすべきです。では活かす、とはどのようにすればよいのでしょうか。一つは光の当て方です。そしてもう一つは素材の組み合わせです。滑らかな紙と並べてクシャクシャにした紙があることで質感は際立ちます。
私たちの目標は「紙でしか作れないアニメをつくる」です。そのためにはいたずらに色取り取りの紙を寄せ集めるだけではなく、それらを効果的に組み合わせ演出する必要があります。
切り絵アニメができていく様子を描く
私たちは「空」をテーマにした短編の切り絵アニメを作っていきます。そしてこのブログで製作過程の様子や切り絵アニメに関連したweb情報をまとめていきます。
制作風景や使う素材、シナリオや音作りなどを画像、動画と共にアップしていきます。
制作風景や使う素材、シナリオや音作りなどを画像、動画と共にアップしていきます。
なぜ制作過程をブログという形で公開していくのでしょうか。それは私たちが結果としての動画コンテンツだけはなく出来上がっていく過程も作品の重要な一部である、と考えるからです。
切り絵アニメだけではなくコンテンツを作成するには多くの過程と工夫が必要とされます。ただ撮影をして終わりではなく、下準備段階のエスキースやシナリオ構想から、音楽の編集まで様々な過程を経てようやく映像1つが出来上がっていきます。一般的に映像コンテンツの製作過程は隠されるものである、という考えがあるのではないでしょうか。結果としての視聴者が観る映像(=舞台)と対照的に、その映像を作るための要素(=舞台裏)は見せずして作品の領域を制限しています。しかし、舞台裏は欠かせないものであり作品の重要な一部だと言えます。製作過程で、制作者が感じたことや考えたことも作品として扱うことができます。そしてこれを記録しないということは作品が作る「世界」の大部分を削ってしまうことでしょう。
メイキングと「作品の映像」は合わせて1つの”作品”となります。
製作過程の状況を表現するには、ブログという形が非常に便利で直接的です。作っていく過程に応じて頻繁に更新していくというスタイルは作品ができあがっていく様子をみることもできますし、何より製作する私たちが顧みる機会となります。閉鎖的になりがちな製作環境に、この場を通じて意見や励ましをいただけるならば、それよりも私たちの力となるものはありません。
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